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第六の容疑者

1960年、宝塚映画、南條範夫原作、高岩肇脚本、井上梅次監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

関西ボイラーの社長秘書別所輝子(中田康子)が、自分が仕えている高山社長(高田稔)の娘芳子(白川由美)の婚約相手山崎(伊藤久哉)と情事を済ませた部屋に、2年前まで付き合っていた興信所社長工藤晋一(高松英郎)が入って来る。

画面は1ケ月前に遡る。

社長の弟で経理課長の高山圭三(佐竹明夫)のところへ一本の電話が入る。

かつて付き合った事があるバーのマダム満子(塩沢とき)から、子供が出来たので会いに来て欲しいと言う、態の良い脅迫であった。

結局、圭三は、言われるままに金を渡すと共に、彼の兄飯沼安蔵(山路朝雄)を工場係として採用し、その飯沼が製品の横流しをしているのを黙認するまでになる。

これを嗅ぎ付けたのが、別件で工場を調べに来ていた工藤だった。

彼は、圭三の妻千恵子(月丘千秋)が、女性雑誌の編集者藤村(岡田真澄)と浮気している事も突き止め、会社の周辺を探って行くうちに、輝子と山崎の事も嗅ぎ付けたと言う訳だった。

そんな工藤と同じアパート「浪花荘」に住んでいた関西ボイラーの社員有馬(宝田明)は、馴染みの飲み屋で隣り合った工藤から、輝子と山崎も事や製品横流しの件をそれとなく耳打ちされるが、工藤の良くない評判を知っている有馬はあまり相手にならず、店を出る。

そんな店に入れ違いでやって来たのが、後輩の有馬と待ち合わせしていた毎朝新聞の記者石岡(三橋達也)だった。

画面は、再び現在の輝子の部屋へ戻り、一旦、帰ったと見えた工藤は、深夜、一人車を飛ばし、六甲山のとある別荘へ向った輝子を秘かに尾行し、意外な逢瀬の様子を目撃する。

工藤はその後、圭三の自宅を訪れ、妻千恵子を恐喝するが、その後、飲み屋にいた工藤の元に、愚連隊の八百坂(立原博)と満田(渋谷辰夫)が現れ脅しつけるが、工藤は相手にせず追い返してしまう。

その頃、関西ボイラーの社長室では、高山社長が、娘芳子の遊び相手もしており近しい有馬に、かねてから内偵を依頼していた、山崎と輝子の仲や、工場での製品横流しの真偽の報告を聞いていた。

その夜、いつもの飲み屋で工藤と出会った有馬は、酔った勢いもあり、一緒に浪花荘へ帰ったアパートの前で工藤を殴りつける。

さらに、その後、工藤の部屋には、再び八百坂と満田がやって来るが、又しても、工藤に相手にされず帰っていた。

その後、飯沼がやって来て、工藤を脅そうとするが、これも巧くいかず退散。

そうした様子を、同じく、アパートの工藤を訪ねようと来ていたものの、入りはぐねていた千恵子が目撃していた。

翌朝、その工藤の部屋を訪れた高山圭三は、部屋から漏れてくるガスの匂いに気づき、たまたま顔を見せた隣人らと共に部屋に入るが、そこには工藤の死体が倒れていた。

アパートが騒然となる中、下の階の有馬は、こっそり現場から去ろうとする圭三を目撃、さらに、アパートの側をうろついていた山崎の姿も発見する。

被害者の後頭部には殴打の痕もあり、工藤は他殺と判断される。

飲み屋で、女将(環三千世)とのんきに事件談義をしていた有馬は、一緒に飲んでいた石岡から、実はお前が一番怪しまれているのだと話し、その言葉を裏付けるように、大阪府警の倉本刑事(森川信)が来て、有馬に任意同行を求める。

その頃、藤村は、工藤を脅すよう依頼していた八百坂と満田から、殺人の犯人として疑われる事になったと、逃亡費を要求されていた。

そんな中、弟の圭三に逮捕状が出たと知らされた高山社長は、興奮のあまり体調を崩し、自宅療養する事になる。

その後、いつもの飲み屋で事件を分析する石岡と有馬。

事件の前後、アパートの工藤を訪れたらしい5人を一人づつ検討して行くが、全員アリバイがあり、犯人像に結びつかない。

残るは、事件当夜、工藤の部屋を訪れた6番目の客が怪しいと言う事になるのだが、その後、アパートに千恵子が来ていた事も突き止め、確認に行った彼女の口から、自分は結局、工藤の部屋へは近付けず、その代わり、当夜、飯沼が帰った後に工藤の部屋を訪れた人物を遠目に観たと聞かされる。

その人物は、どうも女性のようだったという重要な証言を得た石岡は、ある女性を思い浮かべるのだが、彼女は当夜、列車で東京に出かけていたと言うアリバイがあった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

探偵役の三橋達也が、テレビの西村京太郎サスペンスでの十津川警部のように、渋い中年刑事役を演じている森川信と共に、列車によるアリバイを持つ犯人を追い詰めるミステリー映画。

しかし、いわゆる「アリバイ崩し」ものではなく、ラストには、さらなるひねりが加えられている。

複雑な人間関係を説明する描写に前半が使われているため、三橋の登場は途中からだし、彼は特に名探偵のようなはっきりした個性が与えられている訳でもなく、また主役らしくも見えない。

一方、宝田明もどちらかというと脇役であり、つまりこの作品は、名探偵が快刀乱麻の論理で事件を解決するといったタイプの内容ではなく、あくまでも、地道な捜査ものと素人探偵要素をミックスしたミステリーと言える。

この作品で一番注目すべきは、やはり「寅さん」での初代おいちゃん役など、喜劇人のイメージが強い森川信がシリアスな刑事役に挑んでいる事。

本作を観る限り、見事に苦労人型の刑事を演じ切っており、不自然さは全くない。
彼の役者としての懐の深さを知っただけでも、この作品は観る価値があったようなもの。

大映から出向している高松英郎が、いかにも狡猾な恐喝者を演じているのも見所。

まだ髪の毛があるため、ちょっとイメージが違う内田朝雄や、若大将シリーズの妹役として有名な中真千子、いかにも女たらしといったイメージのファンファン(岡田真澄)などが登場している。

往々にしてミステリーの映像化作品では、犯人役に、その時代のもっとも旬な役者や有名な役者が配される法則があり、素人にでもすぐに犯人が想像できてしまい興醒めする事もあるが、さすがにこのくらいの古い作品になると、その時代の役者の「格」が良く分からないので、意外と最後の最後まで、真犯人の見当がつかなかったりする。